白いヒアシンス

「選びましょうか」

ふいに声をかけられて我に返った。
図書館からの帰り道。周囲からぼーっと浮かび上がるようにして明かりがもれてくる、ゆっくりした時間が流れるような、やさしい雰囲気の、そのフラワーショップに気づくと吸い寄せられ、チューリップやガーベラなどの、かわいらしいブーケや生花に見入っていた。

「白いヒアシンス、いいと思いますよ」

ヒアシンス、なんて響きの言葉を聴いたのはいつぶりだろう。
懐かしい感じがした。


近頃、新しく担当になった雑誌の業界研究で忙しく、私の頭の中を埋めていたのは、経営コンサルティング、事業継承、フランチャイズなんて言葉たち。堅苦しかった。なんだか、渇いていた。

「せっかく花を飾っても、すぐ、枯らしてしまうんです」
きちんと面倒がみれない不安をそっとうちあけたら。


「お水は少なめに。毎日取り替えてあげるのがいいんですけれど、つい忘れてしまうのなら、たとえば歯磨きの後、洗顔してクリームを塗った後、なんていう風に。毎日必ずすることのついでに水遣りをするっていうふうに、ついでの習慣にしてしまうといいの。1ヶ月は持つわ」

なんだかお母さんみたいな人。自分の子どもをかわいがるように、花たちを慈しんでいる気がして。好きだな、って思った。

「ピンクのヒアシンスは、好きな人がたくさんいるから、いつもたくさんいれておくの。白いヒアシンスはめずらしいのよ。よかったら、もっていって」

アナタニ、ピッタリノオハナヲ、エラビマシタ。

なんとなく強引な感じなんだけど、不思議に悪い気はしなかった。
育てられるかな。どきどきしながら、白いヒアシンスくんは、我が家にやってくることになりました。


二人のピエロ、野原を駆けるウサギたち、壁いっぱいに並べて飾られているパステル調の絵が、綺麗だなと思って、入ったカフェ。作者について紹介が書かれていた掲示板を見つけて、その絵たちがすべて、作者の両手が不自由なために、足でオイルパステルを握って書かれたものだと知って、暖かい気持ちになった。

本好きの女子学生、パパとぼうや、ヨガ帰りのおばあちゃま、お店に来ている人たちも、ゆっくりと時間を過ごすことを大切にするような人たちばかりで。

キッシュ、胚芽パン、りんごジャム、レモンケーキ、かぼちゃスープ、アッサムティー。パン&キッシュセットのプレート、おいしかったーー。

お気に入りのお店、二つ。見つけました。