ママのバラ
「ねぇねぇ、ほら見てごらん。いつか、いっしょに行った、バラフェスティバルのバラ、がんばってるよ。どれだかわかる?」
母の質問が飛んできた。
わんこに軽い運動させ、花たちに水をやるため、母は毎朝屋上にゆく。少し後から様子を覗きに行った時のことだった。
「わかるかな?どれでしょう?」
なぞなぞをだす子どもみたいにはしゃいだ様子で聞かれ、
うーん。どれだったけかな? 即答できず。
「これよ、これ。もう明日くらいからは散り始めちゃうからね。今日がラストチャンス」
母の指差す先には
ピンク色の小さい花たちがたくさんにぎやかに咲くバラ。
ちょっとずつ思い出してきた。いろいろ悩んで決めた、かわいらしい、バラさん。
ひさしぶり。
「やっぱりママ、バラはピンクなのよね」
白いのや、赤いのや、黄色いのも咲いているけれど、ピンクが一番好きなんだって。
何年前だっけね。一緒に行ったの。西武園ドームだったけ。それこそ世界中のバラが大集合していて、1日がかりで人ごみをかきわけかき分け、見て回ったのよね。
「あとにもさきにもあれっきりね」
涼しげに母は言う。
「またいつかいけばいいんじゃないの」
なんとなくあいづち。
「だって疲れちゃうし、もういいの。うちにきたこの子達、育ててあげれば」
ふうん。確かに道のり遠いものね。あの時も迷って、タクシー乗ったりで、大冒険だったものね。
母の「もういいわ」って言葉には、残念そうな感じはなくて、もう十分満足したから、ごちそうさま、はい次、って響き。
そうね。これからはうちに来た子たちを楽しみに眺めましょう。
昨日の雨でシャワーを浴びたみたいでなんだか艶っぽいバラさんたち。
みんなも涼しい感じね。
せっかくなので。
記録しておきました。