ラジオの会


やっぱりラジオって素晴らしい。

前々から気になっていたこうの史代さん原作の『夕凪の街、桜の国』をラジオドラマにした作品が聞けると聞いて日本放送作家協会主催の制作者セミナーにぶらりと参加。
だけど、ぶらりな割に、今日ってここに来ることはきっとずっと前から決まってたんだって感じてしまうくらい、運命的な出会いと、魂が揺さぶられるような言葉の連続だった。

夕凪…と合わせて聞いたドキュメンタリー『燈燈無尽 ヒロシマを伝えたい』を制作した平尾直政さんはもともとは報道カメラマン出身。原爆小頭症患者の方々が抱える問題をテーマにした番組を数多く手掛けてきた。取材中、映像ではなく声だけなら協力すると言う人がいた。テレビでは表現できない世界がラジオにあるかもしれないと気付いた。それでも伝えなければという思いと彼らを晒し者にしてはならない気持ちの間で揺れ続ける気持ちは変わらない。「制作者としての僕は心のヤスリを持っている気分なのです。扱い方によって、光らせることも傷つけてしまうこともある」というコメントが印象的だった。

女優の斉藤とも子さんは、燈燈・・・、夕凪・・・二作品ともに出演。燈燈…ではどうして女優である彼女がヒロシマと関わることになったのか。彼女の生き方そのものが番組構成の一部をなしている。夕凪・・・では主人公七海の叔母、皆実役。
「だって、出会ってしまったんだもの」出会って、心がつながった人といつまでもつながっていたいと思う気持ちは友情に似ている。ヒロシマでたまたま入ったお好み焼き屋さんで「なんで一人でいるん?」おかみさんが話しかけてくれたことがきっかけで被爆者の方たちの話を聞くことになった。彼女たちの生きた経験談は、のちに斉藤さんの演技を支え、大学院で被爆者の生活史を書くきっかけにつながってゆく。
とても心がきれいで、まっすぐで、女優だけど大仰に演技する様子もなくて、素敵な人。


「燈燈無尽」のタイトルもいい。1本のロウソクはいつか必ず燃え尽きてしまうけれど、その炎を次のロウソクに移すことを続けてゆくと、その灯火は永遠に灯り続けるという意味。ひとつの話を聞いた人がまた次の一人へとヒロシマの話を伝えていってほしいという思いからつけたとのこと。ペイフォワード。


最近のラジオ業界は、経営的にかなり危機的状態。儲からないから、制作に時間や人をさけず、いい番組が創りづらい悪循環に嫌気して、優秀なクリエーターたちがどんどんほかのメディアや業界に移っている。でもだからこそ、淘汰されて、儲かる儲からないという価値観とは違う視点を持てる人、既存の枠組みを超えたラジオの可能性に注目する人に出会える機会が高まっているとも言える。

やっぱりラジオって素晴らしい。