お金の価値



ターゲティングメディア ソリューションの吉良俊彦さんにこんな話を聞いたの。とても素晴らしくって、少しでもたくさんのみんなとシェアしたいから、書き留めておきます。

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編集者になりたいなら、発想力を豊かに、柔軟な視点を持つこと。それはそんなに難しいことじゃない。ちょっとした訓練で驚くほど短期間に能力は上がるんだ。試してみよう。まずは筆記用具を用意して。そしたら、日本のコインを1つ思い浮かべ、その絵を描いてごらん。

たいていの人は10円、1円、5円の”丸い”円を書くだろう。
でもね、それじゃあ自動販売機や券売機を発明する人にはなれないよ。

そう、視点を変えると、長方形にも見えるだろう。この視点を持てた人が自動販売機や券売機のコインの投入口を考え付いたんだ。

いいかい。わかれば早いんだ。同じようにしてペンの絵を描いてみて。少なくとも2つの視点で。そう、横からと真上あるいは真下から。細長い形と、小さな円と書けたね。そんな発想ができる人が筆箱や、ペン立てを作り出していったんだ。

物事を違う視点で捉えられる。すごく大切なことだよ。

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人とコミュニケーションするとき、ちょっとしたトークが人の心をひきつけ、開いてゆく。オープニングトークっていうんだ。ビジネスの商談なんかでもそうだよね。いきなり本題に入らず、天気でもなんでもいい。ちょっとした小話ができるだけで相手との距離は驚くほど縮まっていく。さっきのコインでだって、こんな話ができるよ。

世界で一番価値のある硬貨って知っているかい?実はね、日本の500円玉なんだ。
(参考: 五百円硬貨: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
 スイス 5フラン硬貨 約490円
 イギリス 2ポンド硬貨 約470円
 デンマーク 20クローネ硬貨 約440円)
これを聞いたら、ちょっと得意げな気分にならないか。俺なら嬉しいね。財布に入っているだけで世界一を持っている気分に慣れるじゃないか。500円のものを買う時。俺は迷うね。自分の財布から500円玉を払ってしまうのか、1000円札を払って、500円玉をもらうのか。世界一をもらったほうがいいんじゃないかって、そんな気分になる。

な、こんな話でも「ほほう」と相手がうなったら成功。オープニングトーク、大事にしなよ。

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コインつながりでもう一つ話をしよう。
ある養護施設に行き、子どもたちに「お金の価値」を教える機会があったのさ。子どもたちを前にして、さっきのように聞いたんだ。500円玉1枚と、100円玉5枚、50円玉10枚、10円玉50枚、1円玉500枚がある。

「この中で最も価値のある硬貨はどれだい?」

ほとんどの子どもたちが500円玉に手を上げた。だけど、一人だけ、「10円玉50枚」に手を上げる子がいた。「もう一度聞くよ。最も価値のある硬貨はどれだい?」繰り返し聞いたけど、やっぱりその子は「10円玉50枚」に手を上げるんだ。

俺は困った。先生が生徒に対して決してやってはならないこと。それは一人の生徒をさらしものにすることだ。みんなの前でその子に「どうしてそう思うんだい?」と聞くことは、十二分にその子をさらしものにする可能性があった。俺なら聞けないと思った。

でもね、一緒にいた、恐らく聖心の先生だったと思う、その先生は、(この子は何かを確信してる)と彼女の表情を見て思ったんだろうね。彼女に優しくそっと聞いたんだ。「どうして10円なの?」ってね。その子の答えにはその先生も、もちろん俺もひっくり返ってしまうほど、意外なものだった。

「10円玉でママの声が聞けるから」

その答えを聞いた瞬間、その子が10円玉を握り締めて緑の電話に向かって嬉しそうに廊下を走っていく様子が目に浮かんだね。そして俺は今まで何を教えてきたんだろうって思った。視点だなんだ言ってきたけれど、ここは「養護施設」であって、ケータイ電話なんてない場所だってことにすっかり気づかずにいた自分が恥ずかしかった。物の価値は高けりゃいいって誰が決めたんだ?彼女の言葉どおり、彼女にとっては、500円玉なんかより明らかに10円のママの声がいいに決まってるじゃないか。

誰かに教えてやろうって気持ちはなくなった。いつだって教えてもらうことの方が多いんだよ。

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ね、素敵でしょう?
「一瞬の出会いが自分の一生を変える」ことって、長い人生そうたくさんあるわけじゃない。けれど、吉良さんとの出会いは、そんな素晴らしい出会いの一つになった気がするな。