ピンクのお花

rika-aron2007-06-22


朝病院につくと、「今日は大量に採血したからリハビリはいや」という。「いつもの注射の二倍か三倍は採ったんだからもうママフラフラなのよ」という。こないだも脳の検査で疲れたのを理由にサボったばかりだったから行かせたかったんだけど。看護師さんに「じゃあ明日は行ってくれますか」と聞かれても「明日のことは明日考えるわ」と明日の逃げ道も確保しようと知恵を絞って答えてる。。「ちゃあんと約束してくれないとだめです」と看護師さんに差し出された小指もなぜかすっぽりと握ってしまって。「そうじゃないでしょ」とつっこまれ「そっか」とわざとらしくうなづき渋々小指どおしを絡ませて。今日のところはなんとかリハビリを休む許しをもらった。

その後「散歩ならする」と言うので病院の周りを二人でのんびりと歩いた。母は例の焦げ茶の薔薇のブローチをつけたベージュの毛糸の帽子を被って。

のんびりとはいいながら仕事柄男の人と歩くのに慣れているからか途中なんどか「早いよ」と今度は私が突っ込まれてしまった。木陰を探しながら段差を避けてできるだけ歩幅を縮めて歩くようにした。母は迷子になりたくない子どもの様に私のシャツの左後ろの裾をきゅっと掴んでいる。

5分10分歩いたところで少し休憩。足元に目をやるとシロツメクサの濃い緑の葉っぱと白い花が絨毯のように広がっていた。「あ、あれピンク」母の見つめる先には小さいピンク色の花がシロツメクサたちのあいだにぽつぽつと咲いていたのだった。「こっちにも同じの咲いてるよ」すぐ母の足元にも咲いてるのを教えると、「あ、ほんとだね♪」と嬉しそうに答えゆっくり屈んで小さいピンク色の花を二本摘んだ。そのあと「ねぇ、手伝ってくれる?」と母。私にも花を摘んでほしいのかなと思いきや、屈んだあと立ち上がるのが大変だったみたい。「せぇの」声を掛け合って母に抱き付く形で引っ張り上げた。「そろそろお部屋もどろっか」もと来た道の方へくるりと向きを変え、またゆっくりゆっくり歩き始めた。

「こんなんじゃママどうしようね」ピンクの花を左手に右手で私のシャツを握ってぽつりと母が言った。なんとなしに屈んだあと一人では立ち上がれなかったのがショックだったみたい。「いいんじゃない。一緒にお花摘んだり、ラジオ聞いたり、おにぎり食べたりしてたら。みんないるし」
納得したのかしてないのかわからなかったけど、母は「うん」と小さく頷き、私のシャツをいっそう強く握った。

病室にもどってモロゾフのプリンの入ってたガラスの小瓶に母は水を入れピンクの花をさした。

母には母しか気付かないこと、できないことがある。母のできないことはみんなで手伝えばなんとかなる。

かわいいピンクの花たちも、大丈夫、なんとかなるよと言ってくれてるような気がした。