台湾での旅の記憶

台湾の色は黄色いマンゴーフルーツの色。台湾の香りは南国のやさしい風の香り。台湾の時間の流れ方は、緩やかな小川の流れ。のどかで、心地よく、どこに流れていっても、まあいいかという感じ。


台北についた初日、総統府前の陳水扁罷免のデモを取材した。
「中途半端な中国語なら使わないほうがいい」台湾からの留学生でバリバリ中国語と日本語の(ほかに台湾語英語も)堪能なCさんに促され、私はじっと彼らのコメントを聞いていた。


なぜデモに参加するの?

  • 陳水扁がしていることは正しくないから。不正は正さないと。

いつまでデモに参加するの?

台湾は好き?

  • もちろん!


その後Cさんの学生時代の友人を交えてランチをしている時、
友人から、国民党について、民進党についてどう思うかと聞かれた。
I have no idea。考えたこともなかったからね。何も答えられないよ。


どこかに苛立ちのようなものを感じた。ここは私のいるべき場所ではない?

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台湾の色は黄色いマンゴーフルーツの色。台湾の香りは南国のやさしい風の香り。台湾の時間の流れ方は、緩やかな小川の流れ。のどかで、心地よく、どこに流れていっても、まあいいかという感じ。


翌日、祖父の生まれ育った町まで、足を延ばした。
台北から南へ列車で7時間。


迎えに来てくれた親戚は、いらっしゃいと笑顔で迎えてくれた。
家につき、扉をあけると、そこには20年前私が小学校低学年だった頃の夏休みに、ほんの数日だけ一緒にすごしたことのあるおじさんが、杖を持ち、すっかり白髪のおじいさんになって、やわらかい皮の椅子に座っていた。
顔の表情にかすかな昔の記憶の面影があり、一度会ったことがあるとなんとなくわかった。
目が合ってほんの数秒の間、急いで私は昔にタイムスリップし、おじいさんとのことを思い出そうと必死に記憶を手繰り寄せていた。
次の瞬間起きたことを、私は今でも、これから先も、ずっと忘れないだろう。


「覚えてらっしゃいますか。本当は祖父が一番ここに来たかったのですが体も大分弱っているので代わりにきました」と私が伝えるが早いか、私の顔を見るおじいさんの目にはみるみる涙が浮かび、こらえきれずいきなりおいおいと泣き出し、
「よく、いらっしゃった」ゆっくり、ゆっくりと、それでもしっかりとした日本語で、言ってくれたのだ。


言葉に嘘はなかった。心から私との再会を喜んでくれているようだった。住む場所や過ごした時間が違っても、心を通わせることはいつでもできるのだと確信した。

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ゆるゆると過ごすことの好きな私。そんな私の祖先たちは、やはりゆるやかなときの流れと、多様な文化と複雑な歴史を絡ませながら多層的に時を重ねているミルクレープのような成り立ち方をしていた。


感じることは一様ではなく、時に切なく、時に飛び切りの喜びをもたらしてくれる。


台湾の色は黄色いマンゴーフルーツの色。台湾の香りは南国のやさしい風の香り。台湾の時間の流れ方は、緩やかな小川の流れ。のどかで、心地よく、どこに流れていっても、まあいいかという感じ。