ノリノリ運転手さん
東京地方、昨日と打って変わって青空の広がる気持ちよい天気。タクシーに乗り品川まで移動する。
運転手さんは60歳前後と見える白髪の目立つおじいちゃま。言葉少なで私が「品川まで」と伝えると「高輪口でよろしゅうございますね」と確認。「はい。お願いします」と返事すると、それきりになった。
真面目な運転手さんなのだろう。車中流れているのはNHKだった。でも、ニュースではなく、60年代洋楽特集。THE BEATLESのデビュー曲ラブミードゥだった。
赤信号になった。運転手さんがトン、トン、トトンと指でハンドルを小さく叩いている。
イライラしてるのかな?
2回目の赤信号で、ははんと気付いた。車のスピードがゆるやかになり、運転手さんは再びトコトコトーン、トコトコートン、トントントンとハンドルを叩き出す。さっきまでは端っこの方だけだったけど、今度は真ん中まで使って。
そっか。曲に合わせてリズムをとっていたんだ。
運転手さんのさっきまでのイメージとのギャップが何だかおかしかった。
運転手さんの心は青春時代にタイムスリップしてるのかも。
邪魔しないようにそのまま黙ってBEATLESと運転手さんの指をトントンする音を聞きながら品川までの道を楽しんだ。
「お忘れ物なさいませんように。」やがて運転手さんは何事もなかったように、目的地についたことを私に告げた。
お金を払って、開けられたドアから降りると、運転手さんは、ゆっくりとドアをしめ、離れていった。またBEATLESの世界に戻っていくようにして。