やっぱり走りたかったんだ

突然スイッチを押された感じという表現が一番近いかもしれない。夕べ駅から家までの帰り道でのこと。それまでパラパラと降っていた雨が突如大振りになった。瞬く間にブーツに染み込んできた雨水は、すぐにその下のハイソックスにも伝わって来て私の足をぐっしょりと重くした。髪から顔へ伝わってくる雨粒も最初はうっすらとした汗のようにしたたる程度だったのが、とめどなく私の視界を邪魔するように流れてくるようになった。走るしかなかった。それもできるだけ早く、一刻だって無駄にしないように。呼吸より手足を動かすことが優先でただひたすら前に進むことだけを考えた。そのまま立ち止まらず2〜3分が過ぎた。


同じ感覚だった。今から10数年前私は陸上部に所属する中学生だった。トラック2周800メートル。それが私の専門だった。本気で走ると2〜3分。ほぼ呼吸なし。走り終わると倒れ込んじゃうくらいのエネルギーを消耗してしまう。死にそうに苦しいのにそれでも夢中になってしまう麻薬のような魅力が800にはあった。社会人になってすっかり忘れてたけど。当時の私は何かにとりつかれたかのように、毎日走り続けていた。テスト期間等で部活が休みになるとイライラし、私の日記は走りたい、走りたいの言葉で埋めつくされた。

部屋に着き慌ただしくブーツとハイソックスを脱ぎ、バスタオルですっかりびしょびしょの髪を拭きながら呼吸を整えているうちに、私の気持ちは中学生の時の自分に戻ってた。走り抜いた!よく頑張った。
雨に降られて参った。。。なんて気持ちは吹き飛んでいた。

こんなに気持ちがいいことを、なんでいつしか辞めてしまってたんだろう。

また走ろう。シューズもまだ履けるんだし。

沸かしておいたお風呂に入り、スライドのように部活のときの思い出を脳裏に思い浮かべながら。私は走ることに夢中だったいつかの私との再会を楽しんでいた。